研究概要 |
ステロイド性抗炎症薬の薬理作用は蛋白質合成を介して発現されるという従来の仮説に対し、サイトカインの産生抑制作用は蛋白質合成を介さない転写阻害作用に基づくことが明らかにされた。本研究では、ステロイド性抗炎症薬の肥満細胞脱顆粒抑制作用が転写阻害作用による蛋白質合成阻害によって発現されている可能性について検討した。 1.ステロイド性抗炎症薬の脱顆粒抑制作用:ラット好塩基性白血病細胞RBL-2H3を抗原、ionomycinあるいはthapsigarginで刺激したときに生じるヒスタミン放出反応は、ステロイド性抗炎症薬dexamethasoneにより抑制されたが、その作用発現には6時間以上前処理することが必要であった。またこのとき、dexamethasoneは各刺激で誘発される持続的な細胞内カルシウムの上昇を抑制した。 2.蛋白質合成阻害剤の肥満細胞脱顆粒抑制作用:蛋白質合成阻害剤cycloheximide(CHI)を各刺激剤と同時にRBL-2H3細胞の培養系に添加した場合にはヒスタミン放出反応は全く抑制されなかったが、CHI存在下で2時間以上培養した後に刺激した場合には、いずれの刺激剤によるヒスタミン放出も用量依存的に抑制された。一方、CHIを培養系から除去することにより蛋白質合成を再開させると、CHIの抑制効果は4時間で完全に消失した。CHIは、dexamethasoneと同様に、各刺激による持続的な細胞内カルシウム濃度の増加を抑制した。 3.考察と結論:Dexamethasone及びCHIはいずれも数時間のlag timeの後に各刺激剤によるヒスタミン放出、及び持続的なCa^<2+>濃度の上昇を抑制したことからdexamethasoneもその転写阻害作用に基づく蛋白質合成抑制作用によってヒスタミン放出反応を抑制している可能性が示唆された。この結果はまた短半減期の機能蛋白質が脱顆粒反応,特に細胞外からのCa^<2+>流入に関与していることを示唆するが、その分子機作についてはさらに検討が必要である。
|