近年、動脈硬化の初期病変が既に低年齢小児にも存在することが明がとなり、小児成人病の予防のためにも、動脈硬化の進展の抑制が注目されている。そこで本研究では第一に、小児期における動脈硬化の進行状況を定量的に決定することを目的とする。そのために動脈硬化の進展にともなって生じると考えられている血管内皮障害に着目して、研究を進めたい。この血管内皮障害のマーカーとして、血管内皮表面に存在する抗凝固蛋白の1種であるトロンボモジュリン(TM)を取り上げる。というのは、この蛋白質は正常の状態では血管の内皮細胞の表面にしっかり結合した状態であるが、動脈硬化の進展により血液中に遊離し可溶性TMとして存在することが予想されているからである。当初の計画としては、ウサギに高コレステロール食を与えて血管内皮の障害を生じさせ、トロンボモジュリン(TM)の量的変化を測定することとしていたが、再現性のある測定が困難であった。そこで、人の臍帯より調製した血管内皮細胞を用いて、in vitroでの血管損傷のモデル系を考え、細胞表面及び全細胞でのTM量の変化を定量した。 その結果、血管の損傷が引き金となって血小板から生じる増殖因子のTransforming growth factor(TGF)-betaが、血管内皮細胞のTMの発現量を調節するという興味ある結果が得られた。当初のウサギを用いて動脈硬化を観察するという目的からは少しはずれているが、今後も血管内皮細胞を用いて、in vivoでの動脈硬化の系に近づいたモデルを考え、動脈硬化に関わる因子の解明とその治癒の方法について検討して行きたい。
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