インスリン分泌の細胞内情報伝達における蛋白の燐酸化の役割を明かにするために脱燐酸化酵素阻害剤のオカダ酸の膵島からのアミノ酸によるインスリン分泌、細胞内Ca濃度変化およびcAMP産生に及ぼす影響を検討した。 (1)インスリン分泌実験:60分間のbatch incubationにおいてグルコースを含まないKRB溶液中でのインスリンの基礎分泌量は0.95±0.08ng/3islets/hであった。アルギニン(20mM)とαケトイソカプロン酸(10mM)はそれぞれ4.9±0.3ng/3islets/hと7.4±0.3ng/3islets/hのインスリン分泌をおこした。オカダ酸は前者を0.1μMで41%、0.5μMで77%、そして1μMで84%抑制した。後者に対しては0.1μMでは効果なく、0.5μMで22%、そして1μMで30%抑制した。 (2)細胞内Ca濃度測定実験:3mMグルコース存在下、細胞内Ca濃度は97±7nMであったが、グルコースを除くと116±10nMになった。アルギニンの添加により38nM増加し、αケトイソカプロン酸では41nM低下した後71nM増加した。オカダ酸(1μM)はこれらのアミノ酸の効果に影響しなかった。 (3)cAMP産生実験:60分間のbatch incubationにおいてグルコースを含まないKRB溶液中では83±32fmol/islet/hのcAMP産生があった。アルギニンの添加により197±59fmol/islet/h、αケトイソカプロン酸により116±35fmol/islet/hとなった。オカダ酸はcAMPの基礎産生およびアミノ酸による増加に影響しなかった。 以上の結果はオカダ酸のアミノ酸によるインスリン分泌の抑制は刺激-分泌連関の細胞内Ca濃度上昇やcAMP産生以外の過程に対する作用によっていることを示唆する。またオカダ酸による抑制効果がアミノ酸の種類によって異なることからオカダ酸の作用点は分泌顆粒の放出機構よりも前の過程と思われた。
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