甲状腺機能低下症患者血中にある阻害性抗体(TSBAb)があることが知られている。このTSBAbはTSHレセプターへのTSHの結合を抑制するTBII(TSH binding inhibitory immunoglobulin)陽性型抗体とTSHの結合を抑制しないTBII陰性型がある。このTSBAbの甲状腺細胞膜への作用点について検討した。 (1)このTSBAbのTSHレセプター(R)への直接作用について、TSBAbをブタ甲状腺細胞膜(TSHRと甲状腺細胞膜を有する)、またはモルモット副睾丸脂肪膜(TSHRとモルモット細胞膜を有する)での吸収実験を検討した。ブタ甲状腺細胞膜やモルモット副睾丸脂肪膜で吸収すると、TSHRアッセイ法での標識TSHのTSHRへの結合抑制活性(TSH binding inhibition;TBI)は消失した。しかし、TSBAb活性(bTSHによるcAMP増加作用の抑制度)はブタ甲状腺細胞膜で吸収されるが、モルモット副睾丸脂肪膜で吸収されない場合があるので、TSBAbはTSHR以外の部位へ作用している可能性が示唆された。また、単離ブタ甲状腺細胞膜にて、フォルスコリン、GTPγS、NaFおよびPACAPなどのcAMP増加作用をTSBAbは抑制しなかったので、post receptorでの作用はないと推定した。 (2)TSBAbはTRAbが陰性例でも陽性例を示す臨床症例があることから、実験動物で検討した。可溶化甲状腺細胞膜でウサギを免役し細胞膜抗体を作成した場合、TRAbは陰性であるが、TSBAb活性は陽性を示した。人間の場合でも、TRAb陰性例でのTSBAbは同様の機序で惹起される可能性が示唆された。 (3)TSBAb陽性血清からProteinA法でIgGを単離した。このIgGをパパインまたはペプシンで加水分解したのちProteinA‐Sepharoseで未吸着分画と吸着分画に分けた。未吸着分画をSephadex G‐100にて分画した場合、パパイン処理の場合にはMr5万のFab分画とさらに小分子分画(Mr2〜3万)のところに甲状腺刺激活性(ブタ甲状腺でのcAMP増量で測定)が認められた。
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