研究概要 |
膵β細胞におけるインスリン遺伝子発現に関与するtrans-acting因子は、その異常が糖尿病患者の多くに認められるインスリン生成、分泌の不足に直接関与する可能性があり、臨床的にも極めて興味深い。当該年度においては、我々が転写因子E47/E12(A1/kA1)に見いだしたアミノ酸レベルでの多型性の病理的意義を検討し糖尿病の発症成因としての転写因子の病理的関与を明らかとするため、以下のような検討を行った。 従来より報告されているタイプA1と、Ob1771細胞で我々が認めたタイプの(グルタミンを欠く)A1のそれぞれが、各マウスのstrainに如何に分布しているかを検討する為に、各マウスstrainの肝よりtotal RNAを回収し、RT-PCRを行った後に、plasmid Bluescriptにcloningし、DNA sequencingを行いA1cDNAの構造を決定した。その結果、我々がこれまでに検討した、C57BL/6 ob/ob、C57BL/6、C57BL/Ks、DBA/2、SwissICR、C3H、BALB/cByのうちC3Hのみが従来タイプであり、その他が全てObタイプであることが明らかとなった(Kajimoto Y et al.Gene 139:247,1994)。従来より、C3Hは、BALB/cなどその他のstrainに比し血清インスリン値が高値を示すことが指摘されており、今回、C3Hのみが異なるタイプのA1を有することが明らかとなったのは興味深い。加えて、改めてcDNA libraryのスクリーニングを行い、full lengthのA1/kA1 cDNAをクローニングし、発現実験の準備を整えた。 さらに、A1のcloningに続いて、マウスのE12 homologueであるkA1を、やはりRT-PCR法を用いてplasmid Bluescriptにcloningした。その結果、b-HLH領域の比較で、E47とE12、或いは、A1とkA1の間の相同性は約70%に留まったのに対し、E47とA1、或いは、E12とkA1の間では、実に97%以上の高い相同性が認められた。この結果は、A1とkA1の各々が、単一の遺伝子からalternative splicingにより産生されながら、独自の特異的機能を有する(機能を分担している)可能性を強く示唆した(Watada et al.Gene 1995,in press)。これは、本研究に新たなる意義を付加するものであり、その結果が注目される。
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