羊水穿刺法、絨毛採取法、胎児採血法のいずれの方法においても母体、胎児への侵襲は皆無とはいえず、risk-freeの理想的な胎児DNA診断とは言い難い。一方、妊婦の末梢血液中に種々の胎児由来細胞、すなわち胎児赤血球、胎児白血球、絨毛細胞が極微量に出現することは、既に確認されているが、それらの胎児由来細胞を母体末梢血液中より選択的、純粋に分離、回収し、かつDNA分析できたとの報告はこれまでみられなかった。 われわれ研究グループは1990年以降、独自に母体血による無侵襲的胎児DNA診断法の開発を進めてきた。その結果、母体血より妊娠8週以降は全例に有核赤血球が発見された。また、それら有核赤血球はmicromanipulatorにより回収され、PCR法、FISH法、PEP-PCR法による分析が可能であった。 われわれが開発した母体血による胎児DNA診断法(FDD-MB)を応用することにより、現状でもいくつかの疾患の胎児DNA診断は可能である。現在のところ、single cellのPCR法により診断可能な疾患として嚢胞性線維症、Tay-Sacks病、血友病Aが挙げられる。PEP-PCR法を用いれば、より広範な応用が可能であり、Duchenne型筋ジストロフィーの診断も可能である。また、multi-color FISH法によりいくつかの染色体異常が現状において診断可能である。これら診断可能な遺伝性疾患の種類は、今後急速に増加することが予測される。
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