研究概要 |
慢性膵炎手術例においては、膵管内圧測定を5例に施行し、正常対照例に比し、有意に高値を示すこと(平均40cmH2O)が確認された。またこの手術の際に採取した膵液の回転円盤型粘度計を用いた粘度測定では、5cpから30cp(センチ-ポワズ)と、正常膵液の1〜2cpに比してやはり有意に高値を示した。以上のことから慢性膵炎症例においては、膵液欝滞や膵液流出障害が存在することが確認された。同時に手術時に採取しえた膵石を、1)走査電子顕微鏡観察に備え、Karnovsky's solutionに低温保存、2)強酸を用いた膵石の短時間脱灰、またEDTAを主に用いた緩徐脱灰の両者で膵石の有機基質を得、これらを後の走査電子顕微鏡観察と、組識染色、免疫組織染色用にそれぞれ処理を行っておいた。理想的には脱灰処理の不要な蛋白栓を得たかったが、本年度は臨床例からの蛋白栓は採取し得なかった。 脱灰後膵石有機基質の組織染色でbasophilic,eosinophilicの両成分が複雑に混在する細網状の構造を有することが確認された。またこれらの成分はPAS,Alcian-blueによる染色でも同様に細網状の構造を有することが確認された。さらに、抗フィブロネクチン、抗ラミニン、抗コラーゲンIVの各抗体を用いた免疫染色では、各成分ともに膵石有機基質中に染色され(negative controlではいずれも染色されず)、これら細胞接着因子、基底膜成分が膵石の有機基質として密に膵石中に存在することが明らかとなった。しかもその構造は極めて密であり、炭酸カルシウム結晶はこの密な細網状の有機構造のなかで出現してくることが示唆された。
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