膵石形成の病態を明らかにする目的で、新鮮ヒト膵石を用い、その有機基質の構造、成分を新しい方法で検討し、以下の結果が得られた。まず、強酸による短時間脱灰と、EDTA下に長時間振盪する方法の比較では、えられた基質の光顕ならびに走査型電子顕微鏡による観察ならびに免疫染色の良否から、明らかに前者が優れていた。脱灰後膵石有機基質の抗フイプロネクチン、抗ラミニン、抗コラーゲンIV、抗ラクフェリン、抗reg-PSPの各抗体を用いた免疫染色では、各成分ともに膵石有機基質中に染色され、それぞれの分布様式のある傾向も認められた(negative controlではいずれも染色されず)。これらの染色性も強酸による脱灰群で良好な染色性をしめした。ラクフェリン、reg-PSPが膵石中に含まれることは従来より指摘されており、予想どうりの結果であったが、最も広く分布したのはFibronecectin、Lamininであり、従来全く報告されていなかったことである。このことは細胞基底膜要素、extracellular Matrix成分が膵石形成に重要な役割を果すであろうことを示している。基底膜要素、extracellular Matrix成分の膵管内への漏出、凝集が膵石形成の重要な要素として想定された。慢性膵炎では炎症により、変性に陥った膵実質の成分が膵管内に漏出し、これらの成分が膵管内という環境で貧食などの処理を受けずに停滞、凝集し、蛋白栓形成の一要素となり、結石形成の要因となることが推定される。
|