研究概要 |
胸部下行大大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤手術時の大動脈遮断に伴う術後下肢麻痺は重篤な合併症であり、その確実な予防法、術中モニターは未だ一定の見解はない。今回、(1)予防法として、cold protectionの効果の確認と、脊髄保護液(spinal plegia)の開発、(2)磁気刺激装置を用いたMotor evoked potential(MEP)が、大動脈遮断に伴う脊髄虚血のモニタリングとして有用か否かにつき研究を行った。 (1)(方法)家兎を用いて左腎動脈分岐下大動脈、腸骨動脈分岐上大動脈、後腸間膜動脈を30-45分間遮断し脊髄虚血モデルを作製し、control 群、cold saline one shot群、点滴静注としてPGI_2群、Fluosol DA群、Adenosine群に分類し、各々の脊髄保護効果を検討した。下肢機能の判定は、術後24時間後にオブザーバーによってTarlovの基準を用いて行われた。(結果)cold saline one shot 群では、control群に比べ有意差をもって脊髄保護効果が認められた。また、PGI_2,Fluosol DAの大動脈遮断前後の点滴静注は、有意差はないものの脊髄障害を軽減する効果が認められた。Adenosine には明らかな効果は認められなかった。脊髄保護効果の機序が虚血に対する効果か、再灌流障害に対する効果であるのかは今後の検討を要する。 (2)(方法)同様に家兎を用いた脊髄虚血モデルを作製し、8字形コイル(doublecone coil)による磁気刺激装置を用いて経皮的に胸髄、腰髄に刺激を加えた。刺激脊髄レベル、刺激強度を変化させ針電極を用いて腓腹筋より誘発筋電図を導出した。全例で比較的安定したMotor cvoked potential の記録が可能であった。大動脈遮断後10-12分後にMEP波形のamplitude の低下が認められ、15-20分後に完全消失した。24 時間後の下肢機能回復が良好な例は、MEPamplitudeが術前に近い傾向にあり、今後詳細な波形の解析及びモニタリングとしての有用性の評価を進めていく予定である、。
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