1.意識水準の客観的評価:健常成人を被検者として自覚している意識水準と、"高周波脳波ゆらぎ解析"結果との対比を検討した。眠気を自覚していない覚醒状態においては、パラメーターS1のトポグラフィーでは、全例で前頭部優位のパターンが得られ、これまで報告されている、健常成人における大脳皮質脳血流の分布とよく一致した。一方、眠気を自覚している状態では、この大脳皮質高次機能を反映するS1パラメーターのトポグラフィー表示で、前頭部優位のパターンは消失し、皮質下機能を反映するS2パラメーターは低下した。さらに、入眠すると(睡眠段階1)S1パラメーターの前頭部優位のパターンの消失のみならず、S2はゼロレベルに低下した。 2.痴呆の電気生理学的評価ならびに薬物脳波学的検討:痴呆症例を検討したところ、共通することは、眠気を全く自覚していないにもかかわらず、健常成人における上の結果とは異なり、眠気を自覚している時と同様、S1パラメーターのトポグラフィーにおいて正常な前頭部優位のパターンは認められなかった。また、前痴呆症例以外では、S2パラメーターの低下を認めた。即ち、痴呆症例では眠気を全く自覚していないにもかかわらず、健常成人の眠気を自覚している時と極めて類似した結果となった。この結果から、痴呆発症のメカニズムとして、前痴呆症例に認められる、前頭前野の機能低下に始まり、皮質下覚醒系における機能低下がひき続き起こってくると推測された。さらに、向知性薬TA-0910を用いた検討では(1)簡便な知的レベル評価法であるMMSの投与前後の有意な改善に一致して、S2の上昇を広範囲に認めた。(2)PzにおけるS2とMMS とは相関関係が認められた一方、Fzとは有意な相関は得られなかった。以上の結果から、"高周波脳波ゆらぎ解析"が信頼性の高い薬物脳波学的手法であることが強く示唆された。
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