研究概要 |
術後上肢麻痺発生予知の試みとして,頚髄後方除圧術中に硬膜圧を測定し,術後麻痺との相関を検討した.2-0 nylon医療用縫合糸(松田医科工業製)を硬膜圧測定糸とし,硬膜管露出後,C5神経根根嚢部背側の硬膜圧を測定した.同糸が重量負荷により僅かに撓む程度の状態で同糸の断面積(S,半径0.16mm)にかかる重量(W)と糸長(L)との関係は,L=10mm : W=22.5±4.4(SD)g重/S(n=26),L=20mm : W=7.0±1.2(SD)g重/S(n=26), L=30mm : W=3.2±0.4(SD)g重/S(n=26),L=40mm : W=2.0±0>2(SD)g重/S(n=26),であり,両者間には指数関数的相関が認められた.硬膜圧が糸長29mm以下の場合を高硬膜圧,30-39mmの場合を中硬膜圧,40mm以上の場合を低硬膜圧とし,43例の頚髄後方除圧例を分類すると,高硬膜圧群:14例,中硬膜圧群17例,低硬膜圧群12例となった.高硬膜圧群14例中5例に硬膜縦切開を行った.中硬膜圧群および低硬膜圧群では硬膜縦切開群5例中0例(0%),中硬膜圧・硬膜非切開群17例中1例(0.6%),低硬膜圧・硬膜非切開群12例中0例(0%)であった.高硬膜圧・硬膜非切開群(9例中4例発生)と中〜低硬膜圧・硬膜非切開群(29例中1例発生)の間に統計学的有意差(X^2=4.35,p<0.05)が認められた.この結果から,術中硬膜圧測定が術後麻痺発生にある程度役に立つことが判明した.今後に残された問題は,術後上肢麻痺発生予知法として更に精度の高い方法,および更に侵襲の少ない予防術式を開発することである.
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