研究概要 |
日本人成人20例の頚髄・神経根病理解剖標本,並びに118例の頚髄後方除圧例の検討から次の事実が明らかとなった.(1)頚髄後方除圧後の神経根係留効果(tethering effect)は硬膜管内および硬膜管外の2部位で発生し得るが,解剖学的条件からは後者が多いと考えられること,(2)硬膜管外係留効果は神経根が椎間孔内で絞扼された状態に,硬膜管後方膨隆による硬膜-神経根結合部の後内側移動が加わった場合に発生し,硬膜管外神経根伸展性障害が生じること,(3)実際の臨床例でも硬膜管外神経根伸展性障害が術後上肢麻痺の主因となっていると考えられたこと,(4)麻痺予防法としては,硬膜外係留効果に対しては硬膜縦切開減張術が有効であり,硬膜内係留効果に対しては,本研究により開発された方法により術前に最短前根糸長を求め,それが緊張しない程度の頚髄後方除圧度とすればよいこと,(5)硬膜縦切開減張術は治療法としても有効であること. 別個に43例の頚髄後方除圧例において術中に2-0 nylon医療用縫合糸を硬膜圧測定糸とし,椎弓拡大状態の硬膜管でC5神経根根襄部背側の硬膜圧を測定したが,高膜圧(40g重/mm^2以上)群の9例中4例(44%),および中硬膜圧群(39-25g重/mm^2)の17例中1例(6%)に術後C5神経根障害が発生し,低硬膜圧群(24g重/mm^2以下、12例)では術後上肢麻痺は発生しなかった.高硬膜圧群で硬膜縦切開を行った5例では術後上肢麻痺は発生しなかった.高硬膜圧・硬膜非切開群(46g重/mm^2以上,9例中4例発生)と中〜低硬膜圧・硬膜非切開群(45g重/mm^2以下,29例中1例発生)の間に統計学的有意差(X^2=4.35,p<0.05)が認められた.この結果から,術中硬膜圧測定が術後麻痺発生にある程度役に立つことが判明した.今後の問題として,術後上肢麻痺発生の可能性をさらに正確に予知する方法の開発,および硬膜縦切開よりさらに侵襲の少ない予防術式の開発が残されている.
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