低出力レーザーの鎮痛作用発現の機序に関して、我々は膜の安定化作用を考えそれを中心にして研究を行っている.これまでは赤血球の膜における低張性溶血に対する抵抗性、低下した赤血球変形能の改善等を発表してきた.今回の目的は(1)生体膜の膜成分であるリン脂質2重膜の物性にレーザー光線は影響するか、(2)膜の安定化がイオンチャンネル依存性であるかを赤血球膜のNa、Kの細胞からの流失にて検討する、ことである.1)に関してはDPPCにて2重膜モデルを作成し、低出力レーザー照射を行ったが30分までの照射では膜の物性に変化を生じなかった.(2)の膜の安定化の研究において、赤血球の変形能に及ぼす影響では、新鮮赤血球に対する影響は見られなかったが、侵襲下の赤血球では有意に変形能の改善が認められた.同時に保存赤血球のNa、Kの流出に関しての研究では、特にKの流出が認められこれは人工膜に対しての光の穴あけ現象によるものと考えられた.これらを総合すると、軽度に機能の低下した赤血球を低出力レーザーが賦活していることを示しており、低出力レーザーの生体光刺激作用を示すものである.また、人工膜においては分子レベルでの個々の変化は生じているが、膜全体の性状には変化を及ぼしていない.低出力レーザーの影響は人工膜と生体膜とでは作用が異なっていることが示唆され、生体膜に対する低出力レーザーの光活性効果は膜表面のリン脂質よりもむしろ細胞内蛋白酵素、膜蛋白などの機能・性状の変化によるものであると考えられた.
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