低出力レーザーの鎮痛機序を調査する目的として以下の3つの研究を行った.1)生体膜として赤血球の低調性溶血、変形能、2)およびナトリウム、カリウムの流入出への影響、3)人工膜としてのDPPC2重膜の相転移温、粒子の大きさの変化、である.1)赤血球の低調性溶血においては赤血球膜の表面成分であるリン脂質膜の安定性、流動性を調べることができる.冷所保存という侵襲下におかれた赤血球においてはレーザー照射が生体膜成分であるリン脂質膜を物理的に安定化させることが示された.また、変形能に関しては新鮮な赤血球では変化がないものの、侵襲かにおかれた赤非球では低出力レーザーの照射によって蛋白からなる各酵素が低出力レーザーにより賦活されることがわかった.2)保存血中のカリウム・ナトリウムの流出に関しては、膜の安定化とともに電解質の流出の抑制を起こることが予想されたが、それに反してカリウムの流出増加が見られた.解釈は難しいがレーザーの穴あけ現象が働いている可能性を示唆した.3)相転移温の変化は人工膜(DPPPC膜)により検討したが、低出力レーザー照射によって膜の物制に変化は生じなかった.以上の結果より、軽度に低下した赤血球膜を低出力レーザーが賦活していることを示しており、低出力レーザーの生体光刺激作用を示すものである.また人工膜においては分子レベルでの個々の変化は生じているが、膜全体の性状には変化を及ぼしていない.低出力レーザーの影響は人工膜と生体とでは作用が異なっていることが示唆され、生体膜に対する低出力レーザーの光活性効果は膜表面のリン脂質よりもむしろ細胞内蛋白酵素、膜蛋白など蛋白質の機能・性状の変化によるものではなかろうか.レーザーが侵襲下の生体においてホメオスタシスの維持に役立っているといえる.
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