研究概要 |
F1世代までの正向反射消失ED50値と免疫組織化学の結果から、なんらかの相関関係が推測されるものとしては、(1)海馬苔状繊維メチオニン-エンケファリン分布とイソフルランおよびエンフルランの正向反射消失ED50値、(2)海馬苔状繊維メチオニン-エンケファリン分布とエンフルランによるオピストーヌス発生頻度であった。親系統間で有意差のあった視交又上核ニューロペプチドYは、サーカデイアンリズムの中枢として明期/暗期活動量の系統差に相関している可能性が考えられたが、吸入麻酔薬による正向反射消失の機序には直接には関与していないものと推測された。室傍核,三又神経脊髄路核についても同様に正向反射消失の機序への関与は否定的であった。 海馬苔状繊維はdentate gyrusのgranule cellsからCA3 pyramidal cellsへ投射し、trisynaptic circuitの一部として重要な神経回路を形成する。メチオニン-エンケファリンはここでCA3 pyramidal cellsに対して興奮性に作用し、海馬全体の興奮性に対して促進的に作用することが知られている。これまで海馬機能に対する吸入麻酔薬の影響について様々の報告があるが、麻酔状態の形成に関わる神経部位の一つと考えられる。吸入麻酔薬による正向反射消失効果に海馬苔状繊維が関わっていることを示唆する今回の結果はこれを裏付けるものと言える。 脊髄後角のメチオニン-エンケファリン、ニューロペプチドY、サブスタンスPの染色結果から、頚髄ではニューロペプチドY、仙髄ではニューロペプチドYとサブスタンスPにddN系、C57BL系間に有意差を認めた。メチオニン-エンケファリンは頚髄、仙髄ともに有意差なく、サブスタンスPも頚髄においては有意差を示さなかった。F1世代の検討が途中であり、正向反射消失ED50値、あるいはTail flick testによる麻酔薬感受性評価との相関は今後の課題である。
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