研究概要 |
ddN,C57BL系マウス及びこれらの交雑世代F1について,エンケファリン(ENK)、ニューロペプチドY (NPY)、サブスタンスP (S-P)の免疫組織染色を行った結果、以下の各神経核に系統間の有意な分布差を認めた。すなわち、海馬苔状線維ENK (ddN>C57BL,F1,F1')、視交叉上核NPY (ddN<C57BL,F1,F1')、室傍核NPY (ddN<C57BL,F1,F1')、三叉神経脊髄路核NPY (C57BL,F1M>ddN,F1)、頸髄後角NPY (ddN<C57BL)、仙髄後角NPY (ddN<C57BL)およびS-P (ddN>C57BL)である。これらの結果と正向反射消失ED50値の各系統間での分布を検討することで、これらの神経伝達物質が吸入麻酔薬感受性決定に関わる可能性があるか否かを推測できると考えられる。相関関係が推測できるものとしては、(1)海馬苔状線維ENKとイソフルラン、エンフルランの正向反射消失ED50値、(2)海馬苔状線維ENKとオピストトーヌス発生頻度であった。海馬苔状線維はdentate gyrusのgranule cellsからCA3 pyramidal cellsへ投射し、trisynaptic circuitの一部として重要な神経回路を形成する。ENKはここでCA3 pyramidal cellsに対して興奮性に作用し、海馬全体の興奮性に対して促進的に作用することが知られている。これまで海馬機能に対する吸入麻酔薬の影響について様々の報告が、麻酔状態の形成に関わる神経部位の一つと考えられる。吸入麻酔薬による正向反射消失に海馬苔状線維ENKが関わっていることを示唆する今回の結果はこれを裏付けるものと言える。脊髄後角の染色結果では、ENKが頸髄、仙髄ともに有意差なく、S-Pも頸髄においては有意差を認めなかった。頸髄と仙髄での系統差の現れ方が異なるという興味深い結果である。交雑世代の結果の分析を待って正向反射やTail Flick Testの結果との相関について検討する予定である。
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