生体に抗菌薬を投与した際の尿中濃度推移をコンピューター制御によりシミュレートできる腎-膀胱モデルを用いてin vitroの実験を行った。モデル膀胱の一部に尿流停滞を生じさせるため憩室様の突出を付け、その中に入れたガラス玉の表面に緑膿菌Biofilmを形成させた高度複雑性尿路感染症モデルを作成した。モデル膀胱内の緑膿菌濃度を10^7CFU/mlにと調整し、1)緑膿菌に抗菌力がある(MIC:8mug/ml)ニューキノロン系抗菌薬のciprofloxa-cin(CPFX)を1回200mg、1日3回、7日間単独作用させた場合と、2)緑膿菌に抗菌力はない(MIC:128mug/ml以上)が、抗Biofilm作用が期待されるマクロライド系抗菌薬のclarithromicin(CAM)を同様の投与法で単独作用させた場合と、さらに、3)両抗菌薬を併用作用させた場合で、モデル膀胱内の菌数変動を調べ、併せてガラス玉表面のBiofilmに及ぼす影響を走査電顕を用いて検討した。 1)のCPFX単独作用では、モデル膀胱内の細菌は36時間目で一見除菌されたが、抗菌薬作用後にモデル膀胱内を抗菌薬を含まない新鮮液体培地に交換すると、Biofilm内に潜んでいた細菌による再増殖が認められた。 2)のCAM単独作用では、抗菌力がないため菌数変動はほとんど認められなかった。しかし、7日目のガラス玉表面の観察では、Biofilmの本体であるGlycocalyxが消失し、抗Biofilm作用のあることが確認された。 3)の両抗菌薬併用作用では、モデル膀胱内の細菌は34時間目で除菌され、かつガラス玉表面のBiofilmは消失した。また抗菌薬作用後に培地を交換しても再増殖はみられなかった。したがって、起炎菌に抗菌力がある抗菌薬と、CAMを抗Biofilm薬として併用することは、尿路の細菌Biofilmに対して有効である可能性が実験的に示された。これらの実験成績をふまえて、複雑性尿路感染症を対象に、臨床的にCAM併用の有用性を検討したところ、CPFX単独投与群よりも、CPFXとCAM併用投与群の方がやや治療成績が優れていた。今後、症例を重ねて検討を続けるとともに、CAMの抗Biofilm作用の機序についても基礎的に検討を進めて行く。
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