昨年度の研究で14因環のマクロライド系抗菌薬であるclarithromycinを尿中濃度推移で作用させた場合、緑膿菌Biofilmを消失させる作用のあることが判明した。そこで、そのBiofilm消失機序について研究を進めた。Biofilm消失機序としては、Biofilm溶解作用とBiofilm形成抑制作用が考えられるが、形成抑制作用の有無を中心に実験的検討を行った。方法は、我々の高度複雑性尿路感染症実験モデルの憩室内にガラス玉を入れ、緑膿菌菌液を10^7CFU/mlに調整した時点から抗菌薬(ciprofloxacinおよびclarithromycin)を作用させた。すなわち、ガラス玉表面にBiofilmが形成されない状態から抗菌薬を作用させ、Biofilm形成抑制効果の有無を検討した。 その結果、ciprofloxacin(MIC: 8μg/ml)200mgを1日3回投与時の尿中濃度推移で7日間単独で作用させた場合には、ガラス玉表面を走査電顕で観察すると、緑膿菌が重なり合って多数付着し、Biofilmの形成を認めた。これに対して、clarithromycin (MIC: 128μg/ml以上)を同様の投与法で作用させた場合には、抗菌力がないためにciprofloxacinを単独作用させた場合と同様に、多数の細菌がガラス玉表面に付着していた。しかし、緑膿菌Biofilmの本体であるアルギン酸(Glycocalyx)は認められずBiofilmの形成は認められなかった。さらに両抗菌薬を併用作用した場合には、7日目においてガラス玉表面に細菌の付着は認められず、Glycocalyxも認められなかった 以上より、ニューキノロン系抗菌薬にciprofloxacinにはBiofilm形成抑制作用は認められないが、マクロライド系抗菌薬であるclarithromycinにはBiofilm形成抑制作用のあることが明らかとなった。
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