複雑性尿路感染症において、難治性あるいは再燃の原因のひとるである尿路細菌Biofilmに対する治療学的対応を検討した。 1.実験的検討:生体に抗菌薬を投与した際の尿中抗菌薬濃度推移をシミュレートし得るシステムを用い、in vitro尿路Biofilm形成モデルを作製して、マクロライド系抗菌薬であるclarithromycinのBiofilm消失、およびBiofilm形成抑制作用の有無を検討した。その検討、clarithromycinには細菌Biofilm消失作用があり、その作用機序のひとつとしてBiofilm形成抑制作用のあることが判明した。 2.臨床的検討:実験成績をふまえて、複雑性尿路感染症に対するclarithromycinの併用効果を臨床的に検討した。すなわち、複雑性尿路感染症に対してciprofloxacin 200mgを1日3回、14日間単独投与した場合と、それに加えて、clarithromycin 200mgを1日3回、14日間併用投与した場合で治療効果を比較した。その結果、尿路カテーテル非留置例ではciprofloxacin 単独投与群いに比べて、clarithromycin併用投与群の方が有意に優れた治療が得られた。また、尿路カテーテル留置例でも併用群の方が治療効果が若千優れていたが、統計的な有意差は得られなかった。したがって、複雑性尿路感染症に対しては、起炎菌に抗菌力のある抗菌薬と、clarithromycinなどのマクロライド系抗菌薬を抗Biofilm薬として併用する意義があると考えられ、特に複雑性の程度が中等度な場合には有用な治療法であることが示唆された。
|