研究概要 |
calphobindin(以下CPB)は当教室が胎盤組織から分離精製した血液凝固抑制物質である。その後の研究により、CPBはphospholipase A2の抑制作用や、protein kinase C活性の抑制作用などを有するannexin familyの一つであることが判明した。 また、最近では、細胞の分化・増殖に伴い、annexin familyの発現変化が認められるとの報告もみられるようになってきた。細胞分化増殖の観点と、発癌機構は重要な関連を有するものと考えられるため、我々は、子宮頚癌組織を用いて、CPBのin situ hybridization法による検討を行った。 その結果、癌組織では正常組織に比較してCPBの発現が減少している所見を認めた。そこで今回我々は、CPBと細胞分化増殖との関係について、さらに検討する目的で、(1)ヒト骨髄性白血病細胞株(HL-60)を分化誘導させた場合の細胞内CPB濃度の変化、(2)HL-60にCPB cDNAを持つplasmidを遺伝子導入した際の細胞内CPB発現の変化と、細胞の分化・増殖との関係について検討した。HL-60をtetradecanoyl phorbol acetate(TPA),vitamin D_3,dimethyl sulfoxide(DMSO),all-trans retinoic acid(ATRA)にて刺激したところ、分化誘導に伴いHL-60の細胞内CPB濃度は増加を示した。また、総蛋白あたりの細胞内CPB濃度は、TPA刺激の際に最大であり、刺激前の5.5倍に達した。 次に、CPBのcDNAのcording regionを含む1,958bpの断片をsenceあるいはantisence方向に持つ遺伝子発現ベクターを作製しHL-60に導入したところ、ベクターのみの細胞、antisence CPB細胞に比較して、sence CPB細胞の増殖性は有意に低下していた。 これらのことから、CPBは細胞の分化に関与し、また細胞の増殖に対しては抑制的に作用しているものと考えられた。以上の事実は発癌機構の解明の上で重要な意義を持つものと考えられ、種々の活性を有するとされているCPBの遺伝子工学領域における今後の検討を必要とするものと思われた。
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