研究概要 |
ホメオボックス遺伝子は約40個の遺伝子クラスターから成る形態形成調節遺伝子である。我々は、遺伝子組替え技術によって作製した抗ヒトホメオボックス蛋白抗体(抗HOX4Aおよび抗HOX4B抗体)を用いて、マウス胚の発生過程におけるホメオボックス蛋白鵜の発現パターンを免疫組織化学的に検索した。抗HOX4A抗体の抗体価は免疫染色にはやや不十分であったが、抗HOX4B抗体ではきれいな免疫組織染色標本が得られた。先ず、抗HOX4B抗体を用いた免疫組織化学染色をマウス胎児(胎生11,13,15,17,19日)および成獣マウスの組織で行った。その結果、脳および脊髄神経細胞は弱く染り、脳室脈絡叢、脊椎、頭蓋・四肢の軟骨細胞、心筋細胞、腎、副腎髄質は強く染色された。増殖細胞のマーカーとしてPCNA(DNAポリメラーゼdelta補助蛋白)を免疫染色した結果、抗HOX4B抗体で免疫染色される細胞は、PCNA陰性あるいは弱陽性の細胞で細胞周期の静止期(GO)あるいはGO期に入りつつある細胞と判定された。注目されたのは手足の水かき部分で、プログラム細胞死の領域が強く染色されたことである。合肢症にHOX4B遺伝子の発現異常が関与している可能性が考えられる。成獣マウスの副腎髄質が抗HOX4B抗体で染色されたので、この結果に基づいてヒト成人の副腎を抗HOX4Bで免疫染色したところマウスと同様に髄質が強く免疫染色された。この結果は、マウスとヒトの間には、ホメオボックス(HOX)蛋白の発現組織に差がないことを示唆しており、マウス胎児におけるHOX4Bの発現組織およびパターンはヒトの胎児にそのまま当てはめて考えうることを示していると考えられた。HOX4Bが腎で発現していることから、HOX4Bの標的遺伝子を捜した結果、腎臓で特異的に発現している血漿型グルタチオン・ペルオキシダーゼ遺伝子の調節領域にホメオボックス蛋白の結合配列が見出された。
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