ラット肝の凍結保存、冷保存の実験を行ない、凍結保存は成功に至らなかったが、冷保存における問題点をいくつか明らかにしえた。保存後のグラフトのviabilityには保存温度、肝細胞、血管内皮細胞の保存状態、保存液の浸透圧および粘調度など、さまざまな因子が関与している。本研究では、いくつかの保存条件を変えたラット保存肝を、保存後に37.0℃酸素化Krebs Ringer Bicarbonate solution(KRB液)にて非再還流式肝灌流を行なった。灌流中にTaurocholate sodiumを負荷し、胆汁酸負荷前後の胆汁流量、胆汁酸排泄量、およびLDH排泄量より肝のviabilityを判定した。病理組織学的所見と比較し、この方法は、胆汁酸を負荷しない単なる灌流より、より生理的な胆汁分泌能をあらわし、肝のviabilityをよく反映する方法であることが明らかになった。また冷保存肝では、胆汁酸負荷前の胆汁酸非依存分画胆汁流量は非保存肝にくらべ低下していたが、胆汁酸依存分画胆汁流量は非保存肝よりも良好になる蛍光が認められた。形態面から、保存肝は保存前後でZONEIIIに障害を受け易く、そのviabilityの低下により胆汁酸非依存分画胆汁流量が減少すると考えられた。一方ZONEIの染色率はZONEIIIよりも低く、保存肝における良好な胆汁酸分画胆汁はおもにZONEIで作られることを示唆した。また総胆汁酸排泄量は、病理組織学的所見の障害範囲とよく相関していた。この問題点のひとつの解決方法として、塩酸パパベリンを肝保存前および保存中に使用することで、胆汁流量、胆汁酸排泄量の増加、およびLHD排泄量の低下を認めた。塩酸パパベリンは冷保存中のvasoconstricttionを予防し、胆汁流量と胆汁酸排泄量の低下を抑制し、ZONEIIIのcell viabilityを増加させることが示唆され、今後の臓器保存の分野へ応用が期待された。
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