研究概要 |
天然歯と同様の歯根膜(PDL)による理想的支持を備えた次世代の歯科インプラントシステム開発のための基礎研究として,本研究ではまずPDL細胞の培養法を確立し,種々の培養条件下における培養PDL細胞の形態的,機能的特徴の解析を行うとともに,インプラント材料上における培養PDL細胞の動態観察を行った.その結果,培養PDL細胞にはセメント芽細胞や骨芽細胞フェノタイプに相当する細胞が含まれ,それらはインプラント材料上でもその形態的,機能的特徴を保ったまま増殖し,セメント質/骨様石灰化物をインプラント材料表面に添加しうることを明らかにした.これらの知見は,インプラント培養PDL細胞複合体を生体へ移植する試みに,科学的根拠を与えるものであり,引き続いてインプラント培養PDL細胞複合体移植実験を行った.その結果,インプラント材料単独移植に比較して,培養PDL細胞を同時に移植したものでは,インプラントと母床骨の骨癒着の程度が少ないという結果を得た.本研究で用いた実験モデルでは,機能的配列を有する真のPDLをインプラント体表面に再現することはできなかったが,以上の検討を通して得られた結果は,結合組織性付着形成能を有するPDL細胞と同様の性格を保持した培養PDL細胞を,インプラント材料と複合させインプラント床に移植することによって,インプラント周囲にもPDL支持が得られるとした本研究の仮説を支持するものであり,PDL支持を有する歯科インプラントシステム開発のための基礎的基盤を与えた.天然歯と同様の支持機構を有する理想的インプラントシステム開発のためには,その中心的役割を担うPDL細胞の分化増殖機構の解明や,培養PDL細胞とインプラント材料の複合法の改良など,さらなる検討の必要性が強く示唆された.
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