研究概要 |
本年度は,脳のカテコールアミン性神経におけるアミン輸送に対するサイクリックAMP(cAMP)の作用について検討した.また神経細胞のモデルとしてPC12細胞を用いてcAMPの作用機構について検討した.(本年度の研究計画のうち,初代培養神経細胞を用いる実験は,分担者病死のため変更せざるをえなくなった). 1)ラット脳の細胞外液ドーパミン濃度に対するcAMPの影響:脳マイクロダイアリシス法により,ドーパミン(DA)性神経細胞が局在する線条体部域の細胞外液DAに対するdibutyryl cAMP(dBcAMP)の影響を検討した.dBcAMPは細胞外液DA濃度を増加させた.また,細胞外液中のCaイオン濃度を低下させ高Kイオン刺激ではDA濃度上昇が起きない条件下でも,dBcAMPのDA濃度上昇作用が観察された.さらに,cAMPの作用との比較のためにnomifensine(原形質膜アミン輸送の阻害剤)とreserpine(分泌小胞膜アミン輸送の阻害剤)の効果を調べた.Nomifensine,reserpineともに線条体細胞外液DADA濃度の上昇を起こさせる.これらの阻害剤の作用は細胞外液中のCaイオン濃度を低下させた条件でも観察された.これらの結果は,生きた動物の中枢神経においてもcAMPがカテコールアミン輸送の調節因子として機能しているという考えを支持するものである.また,DA由来の代謝物であるdihydroxyphenylacetic acid,homovalinic acidに対するnomifensineとreserpineの効果も比較検討した.その結果は,cAMPが分泌小胞膜におけるアミン輸送を阻害することを示唆するものであった. 2)モデル細胞(PC12細胞)を用いて,cAMPのアミン輸送阻害の作用機構について検討した結果,このcAMPの作用にはタンパク質リン酸化反応が関与していることが示唆された.
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