本研究は歯周組織に存在する主要な細胞、とくに破骨細胞、骨芽細胞、歯根膜細胞について各々の細胞に対する酸性環境の影響をIn vitroで明らかにするものである。 培養ウサギ破骨細胞をウシ骨片上に播種し、種々のpHを調整した培地中で培養し、骨片上に形成された吸収窩を抗コラーゲン抗体を用いた免疫染色により可視化して画像解析装置により測定する実験系を用い検討した。さらに培養途中で培地のpHを変動させることによる影響を検討した。その結果破骨細胞に骨吸収活性は低pH培地中(pH6.5)で高く、高pH培地(pH7.5)で低下した。またこの傾向は培養途中で培地中のpHを変化させても同様で、可逆的であった。また低pH環境は破骨細胞やストローマ細胞数を低下させ、その形態をも変化させたが、高pHではこれら細胞数は正常pH(pH7.0)と同様で形態学的にも変化は認められなかった。 歯根膜由来の細胞、歯肉繊維芽細胞を低pH環境下で培養後、細胞内に発現するmRNA量を測定すると正常培地よりも低下した。また細胞外に産生されるプロテオグリカン量も低下した。破骨細胞の活性を低下させる環境(カルシトニン、高pHなど)で、DAMP-HCIを用いて破骨細胞内のpHを測定すると細胞内pHは低下する傾向であった。 これらの結果よりアシドーシスや炎症局所における低pHの環境は破骨細胞による骨吸収活性を促進し、結合組織や歯根膜の繊維芽細胞の増殖能を低下させるものと考えられる。
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