研究概要 |
前年度において電子衝撃反応装置の改良を行なった.特に,フィラメント点灯時の反応管の温度上昇を抑えるための冷却装置等について詳細に検討した.その結果,現段階における最適条件を決めることができた.本年度はこれを基に,本装置による電子衝撃励起の反応速度論的考察を含めた性能試験を行なった. これは本反応装置による反応が熱ではなく電子衝撃により進行していることを確かめるためにも重要である.試験に用いた化合物は前年度に条件最適化に用いたアニソールとした.アニソールの転移反応はプラズモリシスにより,電子衝撃に基づいて起こることが既に確かめられている. 実験においてはこの反応に関し,反応条件を種々変化させて詳細に検討した.この結果,フィラメントのパワーを変化させても生成物の収率に大きな差はなかったが,パワーの減少に伴ってフローレートが減ることがわかった.これを基にフィラメントのパワーとフローの関係を電子衝撃関数を仲立ちとして解析した結果,本装置によるアニソールの転移反応が電子衝撃を律速段階として進行していることがわかった. 現在,反応効率をなお改善するための改良を続けているが,この段階で実際の反応に適用した.この結果,ピリジン誘導体のメチル基等の置換基の切断やベンゼン類の二量化反応が進行することが確認され,これらの電子衝撃励起による反応生成物を単離して構造決定することに成功した.更に高速熱分解と本電子衝撃反応との比較を詳細に行った.電子衝撃反応と熱反応とはかなり類似しているが多くの複素環化合物で両者に差異を認めることができた.
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