本年度は紫外線の遺伝毒性については主にUVB領域の光の作用について検討した。太陽光のなかで最も発がんや突然変異に関わっていると考えられているのはUVB(280〜320nm)の紫外線である。そこで、波長312nmにピークを持つトランスイルミネータの光を照射したとき、M13mp2ファージにどのような突然変異を引き起こすか検討した。処理したファージをSOS機能を誘導した大腸菌に感染すると、主な変化はピリミジンの変異であった。このことから、主な傷はピリミジン二量体(6、4-フォトプロダクトも含む)であったと考えられる。一方、SOS機能を誘導できなrecA欠損株をホストとすると、太陽光の時と同様にグアニンの変異が見いだされた。以上のデータからUVB照射により、太陽光によるもの同じグアニン損傷が生じていることが示唆された。 グアニン損傷が酸化的損傷であることが予想されたので、大腸菌に酸化ストレスを与えたときにどのような変化が起きるかを検討した。大腸菌をメナジオンで処理して酸化ストレスを与え、ラトースオペロンのレプレッサー遺伝子の活性が失われた変化を誘導した。変異株からDNAを抽出し、自動シークエンサーを用いて、ダイレクトシークエンスにより変異体のDNA塩基配列変化を決定した。その結果、fapyグリコシラーゼを持つ野性株ではDNAに数塩基の挿入や欠失が起きているものが最も多かったが、fapyグリコシラーゼを欠くMutM変異株ではグアニンからシトシン、続いてグアニンからチミンへの突然変異が多かった。この結果は野性株の大腸菌ではグアニンに生じた損傷がfapyグリコシラーゼにより切り取られる結果、脱塩基部位が生じて挿入や欠失が起きるが、MutM欠損株ではそのグアニン損傷が切り取られず塩基置換を引き起こすと考えると良く説明できる。以上の結果から、グアニンの開環体がGからCへの変異を起こす本体である可能性が高まったと思われる。
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