ペルオキシソーム増殖薬による肝がん発生の機構として、従来のペルオキシソーム過多による過酸化説は、ペルオキシソームの増殖能と肝がん発生率に相関が見られないなどの理由により、認められなくなりつつある。我々はそれに変わるものとして、増殖薬のペルオキシソームとは独立の作用に、細胞の基本的機能の攪乱を仮定し、この変化が肝がん発生には重要であると主張している。そしてその仮説を織り込んだ最近のペルオキシソーム増殖薬の作用とのその生理的意義に関する総説を発表した(Cell Structure & Function 誌)。増殖薬によって引き起こされるペルオキシソームとは独立の変化として、我々はラット肝臓中に蛋白質ヒスチジンリン酸化酵素が誘導されることを発見した。この酵素は状況証拠から、細胞内情報伝達系に関与している可能性が考えられる。このヒスチジンのリン酸化を含む新たな情報伝達経路が存在し、その活性化が、増殖薬による肝細胞の増殖、肝肥大、さらには肝がん発生に関わっている可能性を考えている。そのために新たに見いだした蛋白質ヒスチジンリン酸化反応が、細胞増殖とどう関わっているか明らかにすることを目指している。そうした解析結果の一環として、情報伝達系との関わりを示唆する論文(FEBSLett.誌)とヒスチジンリン酸化脱リン酸化反応を生化学的に解析した論文(J.Biol.Chem.誌、印刷中)を発表した。また、増殖薬による蛋白質リン酸化の変化に関する論文(J.Biochem.誌)も発表した。
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