研究概要 |
FMR-1遺伝子の5'側の非翻訳領域に存在するCGGの反復配列は延長するとそれだけ不安定になり、CGGが200以上に延長するとFMR-1遺伝子が発現しなくなって脆弱X症候群が発症する。本症候群は最も突然変異率の高い遺伝性疾患のひとつであり、その高い突然変異は正常範囲のCGG繰り返し数から前突然変異の変化の頻度が高いことによって支えられていると推測されるが、正常範囲での突然変異は観察されていなかった。そこで、正常アレルでの親子間のCGG反復数を比較して突然変異を検出することにより、正常範囲での突然変異率の推定を試みた。一般集団の303配偶子に相当する親子間でのCGG反復数を比較した結果、29から21への反復数の変化を一例検出した。この結果から正常範囲内の突然変異率の95%信頼区間は6×10^<-4>〜18.5×10^<-3>と推測された。一方、一般集団でのヘテロ接合体の頻度は73.1%であったので、対立遺伝子数とその頻度、ヘテロ接合体の頻度から、各々対立遺伝子が淘汰に中立で有効集団の大きさが3,000と仮定すると突然変異率は5.3×10^<-4>と推測された。このように中立と仮定した集団のヘテロ接合体の頻度から期待されるより少数の親子間の観察で突然変異が見つかったことは、観察されたこのアレルが特に突然変異を起こしやすい性質を持っている可能性を示唆していた。そこでFMR-1遺伝子をはさむCAリピート,FRAXAC1,FRAX-AC2,のハプロタイプ解析を行った。その結果、CGG反復数とこれらCAリピートは連鎖不平衡にあり、かつ、正常範囲で変異が観察されたハプロタイプが日本人脆弱X症候群症候群家系に最も多いハプロタイプと一致していたことより、CGG反復数そのものとは異なったメカニズムで突然変異を起こしやすい染色体が正常範囲でも存在することが示唆された。
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