研究概要 |
Sodium5,6-benzylidene-L-ascorbate(SBA)の点滴投与が種々の悪性腫瘍に有効であることは既に報告されていた。又、我々もSBAのラット静脈内投与により3'-methyl-4-dimethylaminoazobenzene誘発肝癌に対して、空胞変性、好塩基性変性、核の破片化を誘導することを確認していた。SBAの抗腫瘍効果発現の機構を解明する目的で、SBA及びその分解産物のヒト骨髄性白血病細胞に対するアポトーシス誘導能を比較した。高速液体クロマトグラフィーによる定量法を確立し、SBAの安定性を調べたところ、SBAが非酵素的に、ascorbic acidとbenzaldehydeに分解されることが判明した。培養液中ではこれらの物質のいずれもが更に分解を受け、分解とともに細胞障害活性も減少した。SBA,ascorbic acid,benzaldehydeの中で、ascorbic acidが最も強い細胞障害活性及びDNA断片化誘導活性を示した。アガロースゲル電気泳動、DNAの蛍光定量(DAPI法)により、ascorbic acid(0.33mM)によるDNAの断片化誘導はヒト骨髄性白血病細胞(ML-1,HL-60,U-937,THP-1)では観察されたが、ヒト末梢血由来リンパ球、単球、多形核白血球では観察されなかった。Flow cytometryにより、細胞集団のG_1,S,G_2+M期へ分布率には有意な変化は観察されなかったが、アポトーシス小体の出現とDNA断片化の間に正の相関関係が見いだされた。DNA断片化誘導に必要なascorbic acidの最小処理時間は30分であった。Ascorbic acidによるDNA断片化誘導は、ctalase添加により完全に抑制された。過酸化水素(10-100muM)単独投与でも、強いDNA断片化が誘導された。SBAの抗腫瘍作用発現機構の少なくとも一部に、細胞内のSBAを分解する活性、SBAの分解産物であるascorbic acidのアポトーシス誘導活性、及びascorbic acidにより誘導される可能性のある過酸化水素が関与することが示唆された。
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