研究概要 |
adipsinは脂肪細胞から特異的に産生されるセリンプロテアーゼであり、補体D因子と同一物質である。実験動物では、肥満に伴い血中adipsin濃度および脂肪細胞からのadipsin産生量の低下がみられる。本研究課題では、ヒト血中adipsin量として補体D因子活性およびタンパク濃度両面からの測定を行い、これと疾患、特に肥満症との関連を中心に調べることを目的とした。 まず、ヒト新鮮血清からゲルろ過により補体D因子除去血清(RD)を調製した。ウサギ赤血球に大過剰のRDと希釈した検体血清を加え、37℃、1時間反応後の溶血度を測定した。約500人の健常者からの血清をプールしこれを標準血清とし、その溶血度標準曲線から個々の検体血清の補体D因子活性を決定した。合計207名の健常者(年齢21-85歳、肥満度_-22-_+60%)の血中補体D因子活性と肥満度に有意の相関は認められなかった。 次に、adipsinのタンパク量測定を試みた。一次アミノ酸配列のデータから、抗原性の強い4領域(peptide59-71,74-87,131-144,150-163)を選び、合成ペプチドを作製。これをキャリアタンパク(KLH)に共有結合させウサギに免疫し、抗体を得たが、いずれの抗ペプチド抗体も補体D因子に結合しなかった。現在、腎不全患者の腹膜透析還流液から補体D因子を精製し、これを抗原としてモノクローナル抗体作製中である。 以上の結果より、adipsin/補体D因子の生物活性でみる限り、動物実験で観察されたような肥満との相関はヒトでは認められない。しかしながら、血中adipsin濃度と肥満の関係、あるいはその他種々の疾患との関連はまだ未解決の問題であり、今後さらに調べていく必要がある。
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