本研究の目的は、家庭にいる痴呆性老人と主たる介護者である家族との相互作用をとらえ、両者にとってのよりよい生活の質を追求していくものである。 1年目は、痴呆性老人と主たる介護者である家族との関わりの実態を観察、インタビュウした結果から、両者の相互作用の中で起こっていることは何かを明らかにすることを目的とした。 研究方法は、グランデッドセオリーアプローチを用い、質的データ収集と分析を行った。25組の痴呆性老人と介護者の相互作用の実態を、継続的比較分析法によりデータ分析し、相互作用の実態をあらわすカテゴリーを帰納的に抽出した。本研究テーマに関する専門家や研究者によるスーパービジョンを得て、分析の妥当性を高めるようにした。 その結果、痴呆性老人の「確かさ」が、痴呆性老人と介護者の相互作用に大きく影響を与えていることを見いだした。「確かさ」とは、痴呆性老人が自分のもてる力が減退していく中で保っている、もともとある本人の力を表している状態である。また「不確かさ」とはその力を表せない状態のことである。 相互作用のカテゴリーは、痴呆性老人の確かさについてこだわる相互作用(Part 1)と、痴呆性老人の不確かさが確かな場合の相互作用(Part 2)と、痴呆性老人の確かさが確かな場合の相互作用(Part 3)という3つに大きく分類することができた。さらに、Part1には、確かさへのこだわりのありようにより、「穴探し」、「穴掘り」、「穴埋め」と呼べる現象を見いだすことができた。Part2には、「保護」「摩擦」「融和」「抵抗」が、またPart3には「対等」と呼べる小カテゴリーが含まれることを見いだした。
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