本研究の目的は、家庭にいる痴呆性老人と主たる介護者である家族との日常生活における関係性をとらえ、両者にとってのよりよい生活の質を追求していくものである。 1年目は、継続的比較分析法によりデータ分析し、痴呆性老人と介護者の相互作用の実態をあらわすカテゴリーを帰納的に抽出した。2年目はその結果を土台とし、痴呆性老人と介護者にとってよりストレスの少ない相互作用をとるための関わりのモデルを作成した。 1年目の結果、痴呆性老人の「確かさ」が、痴呆性老人と介護者の相互作用に大きく影響を与えていることを見いだした。相互作用のカテゴリーは、痴呆性老人の「確かさ」についてこだわる相互作用(カテゴリー1)と、痴呆性老人の「不確かさ」が確かな場合の相互作用(カデゴリー2)と、痴呆性老人の「確かさ」が確かな場合の相互作用(カデゴリー3)という3つに分類できた。さらにカテゴリー1には「穴探し」、「穴掘り」、「穴埋め」と呼べる現象があり、カテゴリー2には、「保護」「摩擦」「融和」「抵抗」が、またカテゴリー3には「対等」と呼べる小カテゴリーが含まれることを見いだした。関わりのモデルの前提には、痴呆性老人は人との相互作用で自分を低める体験を多くしていること、介護者の関わり方次第によることが大きいこと、介護者は自身の存在の確かさを持ち続ける必要があるということがあげられる。痴呆性老人への一般的な関わりとしては、老人のその人らしさを発揮しているところをとらえるようにすること、痴呆性老人の自己を低めないような関わりをすること、他者の態度を取り入れることができる老人の力を生かすことが含まれる。また老人と介護者は日々さまざまなタイプの相互作用をしているが、その多様性を生かすことが重要である。モデルにはさらに具体的な関わりの方法と、介護者自身に関わることも包含されている。
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