人体内情報伝達系という現代的概念の重要な一部をなす内分泌概念史の調査を基本的にはすすめた。現代のメドヴェイ、ロールストンなどの基本文献を参考にしながら、なおかつ私が専門とするフランス系科学認識論の業績からカンギレムの仕事におもに準拠しつつ、ベルナール、ブラウン=セカ-ル、グレイなどの仕事の調査をすすめている。それは現在も進行中である。萌芽的研究であることもあり、いわば依然前段階ともいえないこともないが、次年度にむけてより限定的で深い射程をもつ研究申請はすでにしてある。 この二年度の成果としては前科学的な遺伝学史、一九世紀前半の体系的医学である生理学的医学の委細顛末、ベルクソンという哲学者が当時の生物学的理論ともっていた関係の分析などがあるが、なかでもとくに刺激感応性という特異な生理学的概念の概念史が本研究に最も深い関連をもつといえる。そのそれぞれの具体的研究成果については裏面を参照されたい。また、昨年勁草書房から単行本も出版した。またベルナールについては2年後にむけて他の三人の研究者とともに近代医学思想史を執筆する過程で改めてとりあげる予定でいる。 今後のより具体的な研究予定としてはつぎのことを考えている。内分泌概念史の一層の掘り下げ。その過程でブラウン=セカ-ル論、そして一時期医学史をにぎわせたオポテラピー概念史などをかく。そして内分泌概念が神経系やその後の免疫系が浮上せしめた問題群に対してある特異な世界をつくりえていたのかどうかその検討を、二〇世紀初頭くらいまでに限定して考察する。その過程でル・ダンテクのように、進化論にもコミットしながら細菌学や免疫学との間を揺れ動いた学者のことも逸話的にとりあげてみたい。ベルナールについては先の教科書以外にもいくつか個別論文を執筆することになろう。
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