本研究は、乳児と母親のコミュニケーション場面における乳児音声を解析することによって、1)母親は乳児の音声からどのような非言語的情報をどの程度認知するか、2)それは乳児の月齢と共にどのように変化・発達するかを明らかにし、さらに、採録した音声を音声信号処理によって加工し種々のコンテキスト下で聴取実験を行うことによって、3)乳児音声のどのような特徴がどのような非言語的情報を伝達するのか、また、乳児に対する聴覚的嗜好実験により、4)乳児がどのような非言語情報をどの程度知覚できるか、5)それは月齢と共にどのように発達変化するかを調べ、乳児の認知系の発達を検討することを目的としたものである。 平成5及び6年度にわたり以下のことを明らかにした。1)乳児は言語運用能力を発揮し始める以前から、音声上に観測される非言語的特性を活用してコミュニケーション行動を行い得る。2)2カ月齢でも多様な非言語的情報を表出し得る。また、3)音声上の非言語情報の発現は月齢を追って多様になるものの、個人差がみられる。さらに4)乳児の発声時の環境(コンテキスト)と伝達される非言語的情報との関係は、母親・保育者・大学生など評定者による差異が一部見いだされたものの、評定者の経験等の差を超えた一般性も観測される。5)幼児を対象にした実験を行った結果、成人による実験結果に比べ、乳児音声上の非言語的情報をより豊かに聴取している傾向、とりわけ音声上の「快」「不快」の情報だけでなく多様な感性に関わる情報を聴取している可能性が示唆され、幼児期の音声知覚についての新知見が得られた。なお、乳児に関する聴覚嗜好実験については現在検討中である。
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