本研究では共鳴核種内部での中性子反応率の分布に着目して実験と解析を行った。本年度は、まず大容量ウェル型NaIシンチレーション検出器、その検出器用の鉛遮蔽体、および検出器回路系を購入し、照射した試料の放射化量を測定するための装置の整備を行った。その後、原子炉での中性子束分布の測定実験によく用いられる共鳴核種の金を用い、その内部での反応率分布を測定するために、厚さ20μmの金箔を10枚重ね合わせた試料を作成し、それを黒鉛設備でAm-Be中性子源を用いて照射する実験を行った。その際、解析上で問題となる共鳴の干渉の影響を調べるために、金と断面積の共鳴が近接している核種の銀、タンタル、インジウムなどの薄い箔によって重ね合わせた金箔を覆った試料を照射する実験も行なった。実験の解析は従来から行われているマルチグループ法、およびマルチバンド法と呼ばれる新しい手法を用いて行なった。その結果、マルチグループ法では、特に共鳴の干渉の影響が大きいときにはエネルギー群数を非常に多くしなければ共鳴核種内部での反応率分布を正しく計算できないことが判った。それに対してマルチバンド法を用いると、比較的少数のバンド数で実験値に近い値が得られることが判った。しかし、今回の実験とその解析結果から、(1)共鳴の近傍で断面積の変化が平坦となっているエネルギー領域での反応が重要となる場合、(2)近接した共鳴を持つ核種が複数含まれそれらすべての核種の反応を詳しく調べたい、などの際にはマルチバンド法を用いても、そのバンド数をかなり増やさなければ計算精度が悪くなることが明らかとなった。そのため、共鳴核種の内部反応率をマルチバンド法を用いて精度良く解析するためには、これらの問題点で解決する必要がある。
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