タンパク質が機能発現するまでに受ける種々の翻訳後修飾過程において、糖鎖転移反応の重要性は広く認識されている。一方、リン酸化/脱リン酸化反応にみられるように、細胞機能調節機構としてのタンパク質修飾における修飾基形成反応に対する脱修飾基反応は重要であると考えられるが、糖鎖脱離反応の重要性については、我々の動物細胞系におけるペプチド-N^4-(N-アセチルグルコサミニル)アスパラギンアミダーゼ(PNGase)の発見以前には認識されていなかった。PNGaseは糖タンパク質の糖鎖脱離を触媒する酵素であり、タンパク質の翻訳後修飾機構としてのN-glycosylation/de-N-glycosylationの鍵となる酵素である。そこで本研究はこの酵素の普遍的存在とタンパク質の機能発現制御への関与を証明することを目的として、哺乳動物の組識、細胞にこの酵素の存在を検索するとともに、内在性基質を同定することを目指している。平成5年度は以下の研究を実施した。 1 マウス結合組織由来線維芽細胞(L-929)中に見出したPNGaseの精製と酵素学的諸性質の解析。マウス培養細胞L-929から疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過を行うことによって酵素をタンパク質として均一になるまで精製した。精製酵素の酵素の性質、基質特異性を調べ、植物、細菌由来の既知の酵素との違いを明らかにした。これらの実績は学術雑誌に発表した。酵素の局在部位の同定、機能解明を目的として、現在、酵素に対する抗体を作製するための酵素の大量調製を行っている。 2 培養細胞におけるPNGase活性の同定。マウス以外の種由来の培養細胞を用いて、この酵素活性を検索したところ、調べた全ての種(ヒト、ラット)に存在が明らかとなった。 3 マウス各組織におけるPNGaseの検索、同定、および性質。マウスにおける臓器分布を調べた結果、酵素活性はどの臓器にも認められること、また臓器のなかでも脳(特に胚)、脾臓に高い比活性が認められた。今後、神経系形成、免疫現象への関与に興味がもたれる。
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