超好熱古細菌は100℃付近の高温で生育できることと、進化面で最も古い生物であるこなどのために、その酵素の特徴と構造の研究は、酵素の耐熱化機構の解明、バイオリアクターなどへの応用、分子進化の解明等において、新たな可能性を開くものとして期待が大きい。本研究では嫌気性超好熱古細菌を対象として、種々の高度耐熱性酸化還元酵素の検索とその精製、特徴と構造の解明を行うことを主な目的とした。その結果、内陸性の超好熱古細菌Pyrobaculum islandicumにグルタミン酸脱水素酵素を見いだし、精製することに成功した。本酵素は既に明らかにしている海洋性超好熱古細菌Pyrococcus furiosusやThermococcus litoralisのNADP依存性グルタミン酸脱水素酵素とは異なり、NAD依存性酵素であることが明らかになった。本酵素は100℃でも熱失活せず、NAD依存性の脱水素酵素として耐熱性の最も高い酵素である。酵素活性の最適pHはP.furiosusやT.litoralisの酵素に比較して高かった。また、本酵素の分子量、サブユニット構造は他の生物由来のものと比較して、小さいという特徴が認められた。さらに、L-グルタミン酸のほかにL-ノルバリンなども反応性を示し、比較的低い基質特異性を有している。また、本酵素は有機溶媒のトルエンや変性剤の塩酸グアニジンなどによって強く活性化を受ける。現在、本酵素遺伝子の大腸菌でのクローニングと一次構造の解明、タンパク質工学的手法やX線結晶構造解析などの研究を進めており、それにより、高度耐熱性グルタミン酸脱水素酵素の構造と機能の相関をさらに明らかにする予定である。さらにPyrococcus furiosusのNADPH脱水素酵素を部分精製し、特徴を明らかにした。この酵素は100℃でも熱失活せず、極めて高い耐熱性を示すことが判明した。また、両酵素はイオン強度の強弱で解離会合するなど複雑な挙動をとる。今後、さらに詳細な特徴を明らかにする予定である。
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