今年度の研究により以下のような点を明らかにすることができた。 1.各オルガネラにおける活性の分布-昨年までの研究では、主としてミクロゾーム画分のみを用いて研究を行ってきたが、今年度は、まず、細胞の諸画分における活性の分布を調べた。その結果、細胞膜画分の活性は弱く、ミクロゾーム画分の活性は、大部分小胞体に含まれている活性を反映しているものと考えられた。一方、サイトゾール画分には活性は全くなく、ミトコンドリア画分の活性も弱いものでしかなかった。これに対し、核、特に核膜にはミクロゾーム画分に匹敵するような活性があった。核膜における活性の意義はまだ不明であるが、アシルCoAの生成は核においてもなんらかの生理的意義を担っている可能性がある。 2.アシルCoAの同定。生成したアシルCoAが確かにアシルCoAであることを証明するため、いくつかの実験を追加して行い、確かにアシルCoAが大量に生成していることを確認した。 3.膜脂質に含まれる脂肪酸の不飽和化・鎖延長における意義。今年度の実験では、昨年度の結果を下敷にさらに検討を進めた結果、膜脂質のなかでもリン脂質に含まれる脂肪酸が優先的に代謝を受けていることが明かとなった。ただ、トリグリセリドの画分にも代謝された脂肪酸がある程度存在していたところから、リン脂質とトリグリセリドの間では一部の脂肪酸の交換反応の起きている可能性がある。こういった反応が、生きている細胞のなかでも起きているかどうかを証明することは今後の重要な課題である。 4.ATPに非依存的なアシルCoA生成に関与する酵素の精製は現在進行中であり、可溶化・部分精製等には成功している。
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