2年間の研究期間中に次のような点を明らかにした。 1.CoAとミクロゾームなどの膜画分をインキュベートすると、アシルCoAが生成することが明かとなった。生成した物質がアシルCoAであることは、種々の実験から確認された。活性は主としてミクロゾーム画分、特に小胞体に存在しているものと考えられた。このほか、核にもある程度の活性が認められた。ミクロゾームを用いた実験から、Vmaxは0.8nmol/min/mg protein、CoAに対するみかけのKm値は170μMと計算された。基質となる脂質を詳細に検討した結果、ホスファチジルイノシトールが最もよい基質であり、ホスファチジルコリンがこれに次ぐものであった。アシルCoAの生成にともなって多量のリゾホスファチジルイノシトールとリゾホスファチジルコリンの生成が認められた。様々な臓器について調べた結果、どの臓器でもアラキドニルCoAの生成が大部分であることが分かった。 2.膜脂質に含まれる脂肪酸の不飽和化・鎖延長における意義。ラット肝ミクロゾームを用いた実験から、膜脂質に一旦取り込まれたステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸等は効率よくATPの非存在下で代謝をうけることが明かとなった。また、膜脂質を分画した結果、特にリン脂質の画分で強く起きていることが明かとなった。培養した肝細胞では、これらの脂肪酸は一旦膜脂質に取り込まれたあとでも、徐々に代謝変化を受けていたが、この際には、上記のATPに非依存的なリン脂質からの一過的なアシルCoA生成系と、ATP非依存的に生成したアシルCoAの代謝変化と再取り込みが中心的な役割を演じているものと思われる。
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