匂いを感じるのは、嗅覚上皮細胞に存在する匂いの受容体に或る分子が結合し、そのシグナルが大脳に運ばれることによる。様々な匂いを感じるために、嗅覚上皮細胞には多数の異なった匂いの受容体が存在していると考えられている。この匂いの受容体をコードすると考えられる遺伝子のcDNAが最近単離され、これらは数百のメンバーからなる多重遺伝子群を構成していることが明らかになった。匂いを識別するためには、一つの嗅覚上皮細胞あたり限られた種類の受容体遺伝子多分一種類だけが発現していると考えられる。どのようにして数百以上あると考えられている遺伝子のうち限られたものだけが発現するようになっているのであろうか?この遺伝子群の発現制御は、勿論転写レベルで説明することも可能であるが、これにはかなり込み入った調節モデルが必要となる。私達は、DNAレベルでの変化をもう1つの可能性として頭において、この多重遺伝子の発現調節を理解しようと試みている。 本年度は、マウスの匂いの受容体遺伝子を多数単離しその構造を解析した。まず、嗅覚上皮細胞からメッセンジャーRNAを調製し、cDNAを合成し、これを用いてPCRを行いプローブを作製した。得られた遺伝子断片をプローブにして、ジェノミックライブラリーをスクリーニングし、対応する染色体領域を多数単離した。これらは、コーデイング領域の配列により数種のサブファミリーを形成していた。これらのうち一つのサブファミリーに属する_<10および>28受容体の遺伝子の構造、特に、5'ノンコーデイング領域に関して解析した。
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