本研究では、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)の多様な生物活性の発現調節機構を理解するための第一歩として、1)HGFの細胞内情報伝達機構の解析、2)HGF受容体の解析を行い、以下の結果を得た。 1.HGFのmitogenとしての活性は、チロシンキナーゼにより正のC-キナーゼにより負の調節を受けることが示唆されていたが、本研究では、TPA(12-o-tetradecanoylphorbol 13-acetate)を用いて、負の調節機構をさらに詳しく解析し、1)低濃度(<10ng/ml)のTPAは、HGF作用に対し何ら影響を与えないが、高濃度(100ng/ml)のTPAは、HGFの作用を増強する(約1.6倍)こと、2)初代培養肝細胞を、高濃度(100ng/ml)のTPAで前処理し、細胞内のC-キナーゼを枯渇した後にHGFを作用させると、HGFのmitogenとしての活性は約2.6倍にまで増強すること、3)C-キナーゼを枯渇させた条件では、H-7(C-キナーゼ阻害剤)によるHGF作用の増強効果はみられないことを明らかにし、HGF作用に対するC-キナーゼの役割を確認することが出来た。 2.初代培養肝細胞や、HGFにより増殖抑制を受けるMethA細胞には分子量を異にする2種類のHGF受容体が存在することが明らかになっていた。本研究では、HGFにより細胞運動が亢進するMDCK細胞、HGFにより増殖抑制を受けるsarcoma180細胞をHGF受容体の解析を行ったが、HGF受容体の多様性はみられなかった。 設備備品として購入したアルミブロック恒温槽は、SDS-PAGEの際のsampleの前処理、in vitroでの酵素活性の測定に頻繁に使用しており、本研究の遂行に十分な役割を果たしている。 最近、初代培養肝細胞には、HGF受容体に特異的なチロシンホスファターゼの存在を示唆する結果を得ており、今後、HGF作用の負の調節因子に的を絞り、HGFの細胞内情報伝達機構を解析する予定である。
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