歯状回の顆粒細胞層の最内側には顆粒細胞の前駆細胞が存在し、成体の動物においても顆粒細胞が新生している。顆粒細胞の樹状突起は様々な感覚入力を受け取っているので、その前駆細胞から分化した顆粒細胞の発達中の樹状突起は感覚入力の影響を受けながらシナプス形成をする。このように感覚入力の影響を強く受けながら行なわれる神経回路網形成が学習や記憶と関連することは十分に考えられることである。私は、成体ラットで新生した前駆細胞が成熟した顆粒細胞に発達する時には、その細胞表面に胎仔型の神経細胞接着因子(NCAM-H)が特異的に発現することを示した。本研究の目的は、NCAM-Hを分子マーカーとして、新生した顆粒細胞が、成体の海馬体内でどのようにして神経回路が形成されていくのかかを検討することにある。これまでの研究の結果明らかになったことは次の通りである。 (1)NCAM-H陽性の発達中の顆粒細胞の数が年齢とともに減少することから、海馬体には新生した顆粒細胞によって新しい神経回路が付加されているが、その付加される神経回路の数は年齢とともに減少することが推測される。 (2)顆粒細胞の樹状突起や軸索(mossy fiber)の巨大シナプスボタンでは、NCAM-H発現はシナプス結合が完成すると消失する。 (3)NCAM-H陽性の顆粒細胞の樹状突起は顆粒細胞層に残存している放射状グリアの樹状突起と接触しながら発達する。
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