本研究では、(1)フィリピンの、1980年代以降の外国直接投資の動向、輸出構造、産業構造の推移を分析し、以下の点を確認した。80年代を通して、委託加工品を中心にして電気・電子、アパレル等の製造品輸出は大きな増加を示したが、製造業全体の構造変化はほとんど進展せず、停滞状況から脱っせなかった。その理由として、製造業を取り囲むフィリピンの諸利益構造が、80年代をとおして、その製造変化を誘うような形で変革されなかった点が大きい。 フィリピンの経済自由化の制度的インフラ(貿易制度、外国直接投資制度、金融制度等)は、1990年代の前半になってようやく整えられた。(2)この制度的整備のなかの、貿易自由化、特にその重要な一環であるAFTA(ASEAN自由貿易圏)について研究した。フィリピンのAFTAへの参加をめぐる、財界、官界の意思決定過程の分析、その影響等について考察した。AFTAの影響としては、第一に、これまで製造業を保護してきた高い壁が取り崩されつつあり、それが比可逆的な過程であることをフィリピンの財界が自己確認した点、第二に域内自由貿易化による経済的影響を、域内貿易比率の一番高い電気・電子産業を取り上げて分析した。これに基づいて、AFTAのスタートにより、水平分業、特に部品、部材にまで深化した域内貿易と分業の進展を予想した。 (3)1994年になって、フィリピンへの直接投資が国内資本、外国資本ともに飛躍的に増加した。経済自由化の制度的整備と直接投資の急増は、製造業を取り囲む利益構造を変革し、その構造変化を誘いつつある。 (4)以上のフィリピン製造業の構造変化の分析と平行して、経済自由化とその製造業への影響の分析に不可欠な視角である「政治経済学」的分析について研究を深め、フィリピン経済分析への創造的適用の方法を探った。
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