本年度の研究調査は、科学研究費によって東京へ数回にわたって出張し、日米の金融機関、製造業企業のヒアリングを重ねることによって、日米企業の国際競争力の推移に果たした資本コストの影響について事実調査を続けた。それによって、いわゆるバブル崩壊によって日本企業の資本調達コスト上昇がきわめて顕著で、銀行等の金融機関からの借入には製造業企業はきわめて消極的であり、と同時に金融機関は貸付けに消極的であり、いずれの面からも一種の信用収縮がうかがえた。それによって、アメリカ企業との国際市場での競争という面からも、一時とはうって変わって自信の無さが目だった。それと、資本コストの上昇、株価下落にともなって、一部でいわゆる「株式の持ち合い崩れ」が生じていることが実感できた。これは、手持ちの株式を売却することによって資金手当てを行なっていること、それがたとえ銀行株式といえども例外でないことをヒアリングすることができ、金融市場、企業間関係の部分で、相当な日本的経営の変化がうかがわれた。この点を銀行側からいうと、不良債権問題が深刻で、そこからの立直りが容易ではないという感触を関係者からのヒアリングで受けることができた。ただ問題は、株式の持ち合いが崩れつつあるとはいえ、一体どういう企業構造が近い将来の企業関係としてイメージされるのかは定かではない。 そこで、アメリカにおける「東アジア・モデル」と「アングロ・サクソン・モデル」との相違、あるいは収斂するのかどうかという議論が興味深い。「東アジア・モデル」は、日本も含めて、どういう特徴があり、その欧米の「アングロ・サクソン・モデル」との共生は可能かどうかに、今後議論が推移していくものと予想される。アジアの金融市場の活況を背景にしたアジア像の転換が進むなか、日本的経営とアジア・モデルとの相違と共通性の吟味、さらには双方のモデルの相互浸透という局面に研究を深めていくことを報告者は計画している。
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