本研究の目的は、オスカー・ルイスがLa Vida(1968)等に述べている「貧困の文化」の諸特徴を我々のネパールの数量的データで検証してみることにあった。その為に、私のポカラ・データベースから、9千戸以上の各世帯の家族情報と家産情報や結婚情報を取り出し、それらの情報を類型化した上で定量的な相関を調べてみることであった。そこで家産情報を一定の相対基準から「富裕階級」、「中産階級」、「貧困階級」とカテゴリー化し、同様に、世帯構成情報を「父系拡大家族」、「疑似父系拡大家族」、「父系直系家族」、「疑似父系直系家族」、「核家族」、「単身世帯」に類型化した。 その結果、「貧困階級」と認知される世帯の相対的分布は、「単身世帯」において最大であり、その分布は「核家族」、「疑似父系直系家族」、「父系直系家族」、「疑似父系拡大家族」、「父系拡大家族」に移るに従って、その分布比率は小さくなって行くことが明瞭に実証された。この事実は、ルイスが、貧困の文化には家族分裂や不和が多い(家族的結合の弱体化)という定性的命題を、彼のフィールドとは全く異なるネパール社会において定量的に定式化したものとして評価されよう。 更に、我々の研究結果からは、家産が脆弱化するにつれて、大家族(父系拡大家族または父系直系家族)は各家族に分裂し、更に、単身世帯へと再分裂するという仮説を主張出来るであろう。この命題は、特定の家族史を辿ることにより検出される命題ではあるが、多量の共時的家族データにおいて推量されたのは、我々の研究が初めてであると思われる。(阪神大震災の為、冊子報告書は、後日、提出することをお許し願いたい。)
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