研究概要 |
惑星の熱的進化を制約するもっとも重要な物理観測量は地殻熱流量である。将来の火星探査においてもその観測が予定されている。地殻熱流量は地表付近の構成物質の熱伝導率に地下温度勾配を乗じて得られる。このため惑星地表環境下のその場の観測では、この両物理量を測定することになるが、熱伝導率の測定にはかなりの不確定性が伴う。従って一般には、事前に実験室内で、推定される構成物質の熱伝導率を予想される温度・圧力条件下で測定することが行なわれる。しかし、火星についてはそのような実験がまだ行われていない。そこで我々は火星地表環境下で想定される疑似火星地表物質を用いてその熱伝導率を測定した。測定法としては、探針法(線熱源法)を用いた。疑惑火星物質としては市販のベンナイト(主成分モンモリロナイト)を粉末化した試料を用い、他に比較のために疑似月物質についても測定した。準備した資料の空隙率は56%に相当する。二酸化炭素雰囲気化でその圧力(10-10^5Pa)、温度(200-300°K)を考えて、又湿らせた試料についても測定した。その結果、以下のことが明らかになった:(1)200-300°Kの温度範囲で試料の熱伝導率はCO_2の圧力と共に減少する,(2)従って火星大気の地表圧力の年変化は地表物質の熱伝導率に影響する,(3)熱伝導率の圧力変化は、Masamune & Smith(1963)の式を用いて近似できる。この測定結果を用いて火星地表のThermal skin depthを求めた:日変化に対し3cm、年変化に対し79cmと推定される。又、同様に火星地表物質の熱慣性が253Jm^<-2>s^<-1/2>K^<-1>と推定され、この値はバイキング探査の赤外線観測から得られた火星中緯度のアルベドの低い地域のそれと良い一致を示す。
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