研究概要 |
核外遺伝子であるミトコンドリア遺伝子(mtDNA)は各個体内では常に母性由来のmtDNAが均一に保持されている。しかし、ヒトmtDNAの変異による疾患が報告されて以来、個体のmtDNAに様々な多型が見られることがPCR法などによって明らかにされてきた。 私共はまずmtDNAの量的変化,質的変化,細胞分化への関わりの三点について調べたことを報告する。 1.ミトコンドリアDNAの量的変化の解析 加齢ラットの各組織(肝、脳、心、筋など)から全DNAを調製し、核とミトコンドリア由来のDNAを区別できるプローブで各々を定量したところ、加齢および食餌条件(摂取エネルギーの相違)によって細胞あたりのmtDNAの含量が変化していて、この変化は組織によっても異なっていることが明らかになった。 2.ミトコンドリアDNAの質的変化の解析 ヒト・ミトコンドリア遺伝子疾患と関わりのある変異mtDNAは組織、加齢変化によってもラットではほとんど見られなかったが、種々の欠失変異に比べて部位特異的な変異mtDNAがかなり大量に存在した。組織特異性より個体に特有の変異でありヘテロプラスミーの割合が異なる個体群の存在が明らかになった。 個体によっては変異mtDNAの割合が正常mtDNAの割合を越えるものもあった。ただ、この変異は遺伝子産物に影響を及ぼさない変異が多かった。 3.培養細胞レベルでの解析 培養細胞レベル(筋芽細胞,HeLa細胞)では変異や量の変化は平常の場合にはほとんど見られないので、細胞増殖の停止時すなわち細胞分化誘導に伴う解析を試みた。ミトコンドリアの蛋白合成の阻害(テトラサイクリン添加)や蛋白合成が全くおこらないmtDNAのない細胞を調製することを試みると、その結果、細胞分化が停止することが判った。 今後の展開:mtDNAを分解するmtDNaseと変異mtDNAの蓄積と細胞機能への影響を調べる。
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