ジャスモン酸およびジャスモン酸メチルエステルはオートムギ(Avena sativa L.cv.Victory)第一葉切片の老化(黄変)を促進し、ゴガツササゲ(Phaseolus vulgaris L.cv.Masterpiece)第一葉葉柄切片の離層形成を促進した。この場合、ジャスモン酸はサイトカイニンあるいはオーキシンとそれぞれ相互作用を示したことから、ジャスモン酸およびその関連化合物は植物ホルモン類と相互作用を示すことによって、多面的な生理活性を発現することが推察された。また、離層形成実験に用いた10日齢のゴガツササゲ芽生えにはガスクロマトグラフ・質量分析法によって、ジャスモン酸が2.4〜3.7μM含まれていることが明かとなった。 さらに、ジャスモン酸による離層形成促進の詳細を調べた結果、ジャスモン酸は離層部を含む葉柄切片のエチレン生成には影響せず、離層部近傍の葉柄側および葉枕側細胞の細胞壁構成多糖の中性糖組成にも影響しなかった。しかしながら、その量的側面、特にセルロース含量を低下させた。ジャスモン酸によって離層形成が促進される場合、細胞壁多糖の重要な合成基質であるUDP糖量の低下が促進された。一方、CMセルロースを基質とし、遊離する還元糖を検出する方法を適用して、ゴガツササゲ芽生え各器官のセルラーゼ活性を調べたところ、第一葉葉柄部および葉枕部において高活性であることが明かとなった。外生的にジャスモン酸を投与した場合、ゴガツササゲ第一葉葉柄部および葉枕部のセルラーゼ活性は著しく上昇した。離層形成に阻害的なオーキシンはこれを低下させた。タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドをジャスモン酸と同時にゴガツササゲ芽生えに投与すると、セルラーゼ活性が低下することから、ジャスモン酸によって上昇したセルラーゼ活性は新たに生合成されたセルラーゼに基づくものであることが推察された。 以上の事実から、ジャスモン酸は細胞壁多糖の生合成を阻害し、その分解を促進することによって、離層形成を促進することが明かとなった。
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