ヒト培養二倍体線維芽細胞における老化・不死化の分子機構

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05834014
• 研究機関: 慶応義塾大学
• 研究代表者: 高野 利也 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (60051364)
• 研究分担者: 斎藤 深美子 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助手 (10158917)
• キーワード: 細胞老化 / 不死化 / Type I collagenase遺伝子 / 転写調節 / 転写抑制因子 / 転写活性化因子

研究概要

申請者らは、細胞老化・不死化過程におけるcollagenase遺伝子の発現変化が、転写開始点上流約1.7kbpに位置する不死化感受性エレメント2(ISE2)に結合する2種の転写因子、すなわち転写活性化因子Plutoと転写抑制因子Orpheusの相互変化によって担われていることを明らかにし、以下の結果を得た。
(1)Orpheusの結合部位であるISE2の転写抑制性エレメントをプローブとしたサウスウェスタンブロットにより、88kDaの位置に単一のバンドが特異的に検出された。同じプローブを用いて不死化細胞cDNAライブラリーをサウスウェスタンスクリーニングしたところ、1種のcDNAが得られ、Bruhnらが報告したSSRP1(structure-specific recognition protein 1,Bruhn et al.,PNAS,89:2307,1992)と一致した。SSRP1は、抗癌剤シスプラチンによって修飾をうけたDNA構造に特異的に結合する蛋白因子で、HMG boxをもつこと、ショウジョウバエからヒトまで非常によく保存されていることがわかっているが、その機能については不明である。
(2)SSRP1の全長cDNAをクローニングし、SRαプロモーター下流につないだ発現ベクターを構築して、ISE2を含むcollagenase遺伝子上流域のCATコンストラクトとともに、不死化前の若い細胞、老化細胞、不死化細胞に導入した。その結果、Orpheusの結合活性の認められる不死化前の若い細胞と不死化細胞でのみ転写活性の抑制が認められ、この抑制はISE2の転写抑制性エレメントに置換変異を導入すると認められなかった。
(3)Plutoの結合部位がinterleukin-2の発現誘導にかかわるNFAT(nuclear factor of activated T cell)の結合部位に酷似していること、NFATと同様その結合活性の中にFos familyの蛋白を構成因子としてもつことから、PlutoがNFAT類似遺伝子である可能性を考え、老化細胞cDNAライブラリーからのクローニングを試みた。その結果、NFAT familyに属する新しい遺伝子がクローニングされ、約4kbpの全長cDNAをクローニングし、塩基配列を決定した。また、この遺伝子は16番染色体上に位置していた。現在、この蛋白因子に対する特異抗体を作製し、Plutoとの関係について検討中である。

研究成果

• [文献書誌] Imai S and Takano T: "Loss of collagenase gene expression in immortalized clones of SV40 T antigen-transformed human diploid fibroblasts." Biochem.Biophys.Res.Commun.189. 148-153 (1992)
• [文献書誌] Sagawa K,Takano T,et al.: "Abrogation of p53-mediated transactivation by SV40 large T antigen." Oncogene. 8. 543-548 (1993)
• [文献書誌] Imai S,Saito F,Takano T,et al.: "Escape from in vitro aging in SV40 large T antigen-transformed human diploid cells: A key event responsible for immortalization occurs during crisis." Mech.Aging Dev.69. 149-158 (1993)
• [文献書誌] Matsuo K,Takano T,et al.: "Expression of the rat calmodulin gene II in the central nervous system: a 294-base promoter and 68-base leader segment mediates neuron-specific gene expression in transgenic mice." Mol.Brain Res.20. 9-20 (1993)
• [文献書誌] Segawa K,Takano T,et al.: "Cyclin E enhances P53-mediated transactivation." FEBS Lett.329. 283-286 (1993)
• [文献書誌] Imai S,Takano T,et al.: "Immortalization-susceptible elements and their binding factors mediate rejuvenation of regulation of the type I collagenase gene in simian virus 40 large T antigen-transformed immortal human fibroblasts." Mol.Cell.Biol.14. 7182-7194 (1994)